今日たまたまオークションを見ていると、ギブソンの60年代後半から70年代前半ごろのピックアップのレプリカを作っているという方を発見。そういえばアメリカのネットあたりでも「T-TOPレプリカ」という名前で同時期頃のピックアップを製造販売している業者を見かけました。

 で、その人の理屈が面白い。曰く「ピックアップのアルニコ5磁石は50―60年経てば磁力が1/3になってしまう」のだそう。当然ながら磁力が変わればサウンドは変わるので、その点では私も同意します。しかし問題は本当に磁力が経年によって落ちるのかということ。それともう一点は仮に磁力が落ちたとしても、それをビンテージサウンドと結びつけるのは無理があるのではないかということ。

 まず一つ目の磁力が落ちるという点について。これは落ちるという人が大半ですね、特にアルニコの場合には。しかし面白いのはピックアップ製作者としての大家であるビル・ローレンスは「磁力は数十年程度では落ちない」とはっきり言っている点。

 こればっかりは実際に磁石に着磁して経年変化を見るのが確実でしょうね。私はそんな設備を持っていないので確認のしようがないのですが、ディマジオやダンカンにピックアップづくりのノウハウを教えたローレンスおじいさんが言うことですから、かなり信ぴょう性は高い気もします。

 それはどなたかの正確な実験結果の発表を待つとして、二つ目の磁力の低下とビンテージサウンドの関係について。以前にも書きましたが、不思議なことに「ビンテージサウンド」と世の中で言われる際には、殆どの場合が70年代初期のロックのサウンドのことを指します。

 それも不思議なことにストラト系のシングルサウンドに関しては当時のディープパープルのリッチーの音であり、ハムバッキング系の音としてはこれまた判で捺したように当時のレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジの音。

 リッチーの音は確かに今聴いても理想的なストラトのナチュラルサウンドだと思います。あれは私の中でもモデルにすべきストラトサウンドです。しかしジミー・ペイジは果たして・・・(笑)。あれほどピッキングとフィンガリングがバラバラなギタリストのサウンドを一つの「理想型」にするのが私にはどうしても分からないんですね。

 だって一言で言ってペイジは下手だもの(笑)。確かに作曲者、パフォーマーとしては天才的なものを持っていたので私も好きです。でもギタープレイ自体はねぇ・・。なのでまずもって多くのビンテージサウンドを追求されている方々のモデルサウンドに疑問を感じるのがひとつ。

 でもこれは好き好きの問題ですから、まあよしとしましょう。もっと大きな疑問は技術的な話です。ビンテージサウンドを追求する方々が70年代初期のマーシャルにその当時のレスポールを直結させたサウンドを理想とするのはそれでオーケーです。

 しかしそれを追求するためのピックアップに当時のピックアップを使おうとしている点がもの凄く疑問なんですよね。なぜだか分かります?だってそういうサウンドを追求しているピックアップメーカーは冒頭に書きましたように自分自身で「アルニコの磁力は50―60年で1/3になる」って言ってるじゃないですか。

 だったら70年頃のビンテージピックアップをそのまま今使ったら、その頃から既に40年も経っちゃってますからマグネットの磁力は1-(1-1/3)× 40年/60年 = 5/9になってるってことですよ?そんなに磁力が下がっちゃったら同じピックアップでもぜんぜん音違うでしょう?

 それにですよ、70年当時にペイジが使っていたレスポールが58、59年頃のものだとして考えれば、ピックアップはほんの10年強経過していたに過ぎないんですよね。ピックアップで10年経過しているなんて、1-(1-1/3)× 10年/60年 = 8/9 ですからほとんど新品ですわね。一方でもし58年製のレスポールに最初から付いていたPAFが今あるとすれば、既に製造から50年も経っているわけですから磁力は 1-(1-1/3)× 50年/60年 =4/9に落ちちゃっていることになります。だったら音が全然違いますよね。

 だったらもし今現在において70年当時のペイジのサウンドを再現するのであれば、アンプは70年当時のスペックを持ったマーシャルで良いでしょうが、ギターに付けるピックアップは製造後10年しか経っていないPAFコピーピックアップで良い、ということになるのです。と、いうかその組み合わせしか音を再現するためには許されないはずです。

 なのにビンテージサウンドを追求するマニアの方々は何故かオジリナルPAFやその流れをくむ70年前後までのギブソンのピックアップを取り付けようとするんですね。不思議ですね(笑)。そんな古いピックアップを付けたら、彼らの説によれば磁力が落ちてしまって絶対に70年当時のペイジと同じ音などするはずないのに・・。

 矛盾してますよね、完全に(笑)。でもね、私の経験から言わせてもらえば、私も79年製のT-TOPを使っているわけですが、30年経っても別にマグネットのパワーが落ちているとは全然思いませんよ。もちろん測ったわけではありませんが、でも冒頭の理論によれば 1-(1-1/3)× 30年/60年 = 2/3 くらいに磁力が落ちていなきゃいけないはずなんですけどね。でもつい先日マーシャルで鳴らしてもバリバリパワフルで普通にええ音してましたよ。

 まあそうやって考えてみると世の中に溢れている様々なエレキギターのビンテージサウンドに関する話なんて眉唾ものが多いんですよね。なんか売る人達にとって都合の良い理屈付けばかり。ローレンスが言うように、多分アルニコの磁力って50年程度じゃ殆ど変わらないと思いますよ。

 もしそうだとすれば、ビンテージサウンドを追求する人たちが70年頃のビンテージピックアップを探して当時のマーシャルで鳴らすことに意義はあるんではないでしょうか?何となく経年変化のマジックがうやむやになるような気もしますが・・。

 まあ世の中で商売上手な人たちが宣伝しまくっている胡散臭い話を鵜呑みにしないで、一度じっくりと考えてみるのもいいかもしれませんね。

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